転身する合間はDTPのスクールに通うことに
医療機器メーカーを丸2年で辞めた僕は4月から半年間DTPのスクールに通った。そこは専門学校ではなくいわゆる社会人スクールであり、Macの操作、Illustrator、Photoshop、InDesign、QuorkExpressの操作を教えてくれるという趣旨のもので、触れ込みとしては未経験から3ヶ月でプロになれて、現役プロの人による直接指導で必要なデザインスキルが身に付くという話だった。僕が通っていた平日クラスは会社に勤めていては通えないからか6人しかいなかったが、全ての講座の終了後に実際にデザイナーとして就職できたのは僕ともう一人の女の子だけだったと思う。その講座では「DTPエキスパート」という日本印刷技術協会がやっているデザイン・編集・製版・印刷・加工する技術や知識を認定する資格を取得することを最終目標にしており、そのお陰でその頃から僕のデザインデータの仕組みや印刷に関することの基礎知識は出来上がっていて、どの会社に行っても最も知識がある部類に入ったし今なおすごく役立っているという意味ではとても良かったのだけど、実際に働いてみると現場ではそれよりもデザイン力の方が遥かに大事なため、それなりにお金と労力をかけて取得した資格の割には就職活動という意味ではあまり役には立たなかった。
大学の頃と違って学ぶことへの意欲は最上級に強かった
スクールで学ぶデザインはとても楽しいものだった。通っていたスクールは当時この手の講座の中では高額かつ厳しいとされていたこともあって、毎日課題をデザインしていくうちに雑誌やポスター、チラシ、CDジャケットなど色々なものが出来上がり、講座が終わる半年経つ頃には気持ち的にはいっぱしのデザイナーになれた気がしたものだったが、こうしたスクールの課題で作ったものや自主制作みたいなデザインは就職活動ではほとんど評価されず、どっちかと言うとMacと各種ソフトの操作はできるから未経験でも入れてくれるような現場に巡り遭えるまで我慢強く就職活動を行えるかどうかが大事だったように思う。僕自身は一旦そうした就職活動をせずにそのスクールを運営していた会社にインターンとして潜り込むことができて、そこがそのままデザイナーとしてのキャリア1社目となるのだが、インターンと銘打っているだけあって1ヶ月13万円ほどの給料で1年間耐えなければならなかった。医療機器営業の2年間で貯めた300万円は学費と家賃と生活費とで1年も経たずに底をつき(税金と社会保険があんなに取られることも知らなかったり行き当たりばったりなのも否めなかった)、そこからはその13万円で全てを賄わなければならず、東京都23区内で一人暮らしをしていて朝から晩まで働いて他に収入がないとなると、昼は350円まで、夜は自炊をするしかなかった。昼は事実上牛丼屋くらいしか選択肢がなく、15連続で松屋に通った時は途中から辛くてトラウマの味になっていき(松屋は味噌汁が付くから食べるのが辛くてもそれでも松屋に通った)、夜は夜でインターンというわりには残業が多く基本的に23:30以降の退社だったため自炊と言ってもこれまた連日使い果たした頭脳ではかなり辛いものだったが、他に選択肢がなかったので仕方なかった。
実務としてのデザインはつまづくことも多かったが…
それでも毎日のようにスクール運営で実際に使われる販促物や教材を製作することは(チラシやDM、ポスター、雑誌広告、パンフレット、テキストなど結構多岐にわたる制作業務だった)、今思うとオペレーションではなく最初からデザインさせて貰えていて、印刷の紙を選んだり、全ての刷り見本をデータと見比べたり、印刷会社の人とのやり取りも全て自分でやれるという仕事そのものはとても面白く、少なくとも医療機器営業の頃と違って自分自身の人生を全身全霊で生きている感覚があったし、まだ素人と言ってよい状態だから明らかに毎日の成長を自分でもハッキリ感じとることが出来た。とは言うもののデザイン実務という意味では素人同然なのだから小さな制作物一つ作るにしてもかなり色々なことにつまづいて、また制作物は実際に使われるわけだからその依頼者もいるわけで、そういった人たちとのコミュニケーションでも結構色々つまづいたから、社内からの評価は低く、自分自身立ち回りがうまくいかなかったのも自覚があって、今思えば特に上司であるディレクターには僕の知らないところでも色々迷惑をかけていた気はするが、それでも半年くらい経つとだいぶ一つ一つの案件を俯瞰して見ることが出来、どんなものでもうまいことレイアウトしてみせるよ、みたいな自信がついてきたように思う。そんな感じでデザイナーになってやるんだという意気込みもあって自己顕示欲も強い分、体当たりでデザイナーとして振る舞うことにぶつかったわけだが、そこにいた1年間は貧乏だけどやりがいのある時間で下積み時代としては良い思い出であるのも間違いない。
いざ、グラフィックデザイナーとして就職活動へ!
インターンという立場上の制約があって1年以上いることは許されず、そこで今度こそ本当にグラフィックデザイナーとして就職活動をすることになる。とっくに全くお金はなくなっていた1ヶ月とかでも収入を途絶えさせるわけにはいかず、何とか給料の出ているうちに次の職場を見つけなければならなかったが、インターンで制作した大量の実務での制作物があるし、経験も積んで多少の自信はついたしで、ポートフォリオを持って意気揚々とこれはと思う求人情報に手当たり次第応募して臨んだものの、これまた自身の思惑とは反して落ち続けることとなる。