営業力がない代表だと事業はハードモードに
会社を立ち上げて何年もやっていける人、いけない人、うまくいく事業、いかない事業、小さな会社がどういう人生を辿るかはもちろん会社によってそれぞれですが、これまで何百社もお客さんを見てきて、そこには大企業もあれば中小企業、スタートアップ企業、個人事業主・フリーランスとそれこそ十人十色のビジネスフィールドがあったわけですが、デザインやプロモーションの支援をするという接し方の中で気付かされた普遍的な事実が1つあります。それがこの営業力がない社長や事業のトップだとその事業はハードモードになるということ。製品力・サービス力は他社よりも素晴らしいのに、それを売る力が弱い状態だと当人は良いモノを作ってるから売れると思っているのとは裏腹に、かなりの苦戦を強いられる、最悪撤退や廃業に追い込まれるということが起こりがちだということです。
僕自身は独立する時にそんなに自分に営業力が備わっているという自覚はありませんでしたが、この10年を振り返ってみると世間一般の中では営業力は高い方だったというのは実は思ってもいなかったことですが、しかしながらそれが故に今なお生き残れているとさえ感じさせられます。デザイン業といえども仕事として行うデザインが純粋にデザイン力や表現力を競い合うトーナメントを行っているわけでもない以上、もちろん常に一定水準のデザインクオリティを達成する必要はありますが、同じくらいにお客さんを汲み取る力やスムーズに進行する力、プレゼンをする力など、デザイン以外のところで勝負は定まっているからです。そしてそれらはビジネスフィールドとしては「営業」の範囲となるわけで、それはグラフィックデザイナーとして優れた人を探す以上に、営業的に優れた人を探すのは大変なように思います。
“弱者が勝てる”戦略理論「ランチェスター戦略」にも
最近何かのYouTubeを見ていて知ったのですが、ランチェスター戦略でもこれを裏付けることが言われているようです。ランチェスター戦略というのは軍事戦略を中小企業の経営戦略に落とし込んだもので、他の経営戦略理論とは一線を画すその語り口は僕も昔読んだ時にとても印象に残ったものですが、ともあれ、そこでは経営の要素を4つに分け、その重要度をパーセンテージで表していて、営業の重要度が全体の53%、商品は27%、組織は13%、財務は7%となっているとのこと。ワッカデザインで言えば商品はデザインなのだからその重要度は27%であり、実は営業的なやり方と実行をどうするかの方が企業として生きていくのに遥かに重要というわけで、これは前述の通りこの10年間の僕の体感とも一致しているのだけれど、それは必ずしもむやみやたらに飛び込み営業をかけるというものでもなく(ビジネスマッチングや問い合わせフォーム営業、テレアポ営業をしていたこともあるけど)、デザインで困った時に呼んでもらえるような説明の仕方や態度で一貫していて、このワッカデザインのコーポレートサイトもそうした意識の強いものとなっています。要は時にこの制作会社として変わっていると言われるこの立ち位置に世の中の需要があるのは間違いなく、数年で顧客が移り変わっていきながらもなんだかんだ仕事が10年間全く途切れず、コロナ直撃の年を除いて毎年20〜30%ほど増収となっているのもここに由来していると言って過言ではないというわけです。
そしてこのランチェスターの重要度からするとデザインに至る前に実は勝負の半分ちょっとはその営業フェーズで決まっているということになります。ワッカデザインのお客さまの中にも正直いるし、過去に参画したプロジェクトでも心当たりはあるのですが、トップが営業的素養がないとその会社、事業は高確率で倒産、撤退の憂き目にあってしまいがちだったりします。日本の古き良き中小企業的な「いいものさえ作ってれば売れる」は実際にはかなり難しく、良い顧客と出会う運があったかなかったかみたくなってしまうわけです(逆にいきなり大口発注があってキャッシュがまわらず潰れることもあるかもだけど)。言い換えれば、その良い顧客を探してこれるか、自分達に引き付けることができるかが、つまりここで言う営業ということになるのかもしれないですね。ローラー作戦的なことを否定するわけではないし実際それが有効な会社もあるだろうけれど、営業の姿形もまた一定ではなく会社の個性でそのスタイルは大きく異なるものだから、うちの会社の営業戦略はこうだよ、というのが現実のビジネスフィールドを踏まえてやれるのかどうか、ということになるのかな。そういうわけで経営という視点からすると営業の重要度は他の何よりも高いからそこで手は抜けないし、またそれは戦略なくむやみやたらにやっても駄目、要はそういうことなのかもしれません(営業戦略自体が現実に合ってないとか戦略があればいいというものでもない気もします。いわば机上の空論とか無理ゲーというやつですね)。
ビジネスや案件を何とか納品に漕ぎ着ける力が一番必要
そうしたことを踏まえていくと、僕も時々聞かれるのですが、独立・起業に、あるいは会社経営をしていくのに一番必要なことは何ですか?という問われれば「ビジネスや案件を何とか納品に漕ぎ着ける力が一番必要」と答えることにしています。それは誰も見たことのないようなビジネスモデルや他社にない製品・サービスを生み出すことはもちろん良いことなのですが、それをビジネスとしてやっていくと絶対に予想もしなかったことが起きたり、あるいは自分達のミスで思わぬ方向に行ってしまったり、不運が重なってどうにもうまくいきづらい状況というのは何度も起きるからで、それで諦めるのではなく何とか立て直したり、無茶苦茶カッコ悪くて謝り倒してでもいいから最後まで辿り着かせて納品、売上にできるかどうかが最も大切だと思うからです。ちょっと興味があるくらいのお客様に接する態度とかも見ているとすごく差があって、やっぱりやれる営業マンはいつ来るともしれない確度の低い状態でもこれ以上なくしっかり対応しているものだし、逆に営業力の低い会社だとシラーッとしているものです。こうしたことは無自覚だと思うけど、周りから見ていれば一目瞭然。結局常に一生懸命やるということが実は一つの才能であり、独立してやっていくにはそこが一番大事な資質なのかもしれません。今回は触れなかったですが、受注〜納品〜請求〜入金といったビジネス的な基礎みたいなものも含め、独立・起業やいずれ経営に携わるということが視野にある人は、やっぱりそうなる前にキャリアの中で営業経験があるに越したことはないんでしょうね。今思うと僕が新卒で入社したのが医療機器営業で、そこで徹底的に鍛えられたのは本当に大きかったのかもしれません。まぁ正直なところ地獄のような記憶しかないんですけどね(笑)