紙のデザインの仕事ってなくならないんじゃ…!

「最近紙のデザインの仕事多くない?」と社員はつぶやいた

細かな数字は忘れましたが、10年くらい前に印刷業界の推移を見たことがあります。僕らも多用している「ネット印刷」が登場したのが2000年台中頃で、印刷単価を1/2〜1/3くらいに引き下げることに成功し、そこから日本全国3万社あった印刷会社が2010年台中頃には1万社を割るところまで減ってしまったというものでした。僕個人で言えばちょうどその頃にグラフィックデザイナーになり、勤めていた会社での業務はともかく副業ではネット印刷を活用していて、中綴じならこの会社だな、ペラならこの会社だな、おお、この会社はそもそもFMスクリーニングか、この会社だけこんな紙選べるな、などと楽しんでいた(?)のもあって、あまりネット印刷を悪く言ったりはしないのですが、印刷業界の斜陽性を価格面から高めてしまったのはあるのかもしれません。印刷物がかつてほど需要がなくなっているのも確かなので、どっちにしても遅かれ早かれだとは思いますけどね。

それで何となく世の中的にも「もう紙の時代じゃないよね」みたいな空気は随分前から当たり前になり、デザイナー的にもWebデザインの方が本筋っぽい気配もありますが、ワッカデザインに寄せられる新規案件って結構な割合で紙のデザインだったりするんですよね。パッケージデザインだったらまだわかるのですが、意外とカタログだったり、会社案内だったり、店頭周りのSPツールだったりという「いかにも」な紙のデザインの問い合わせをいただいています。前述の通り印刷物全体という意味では絶対数は減っているのでしょうが、紙の制作物って必要なところには絶対必要なので、デザイン性のある案件の数は実はそんなに減っていないのでは?というのが僕らの肌感覚だったりするわけです。

印刷請けの仕事も増えている!

それでそもそもあまりツテがない会社さんがうちのような小さなデザイン会社に問い合わせるわけなので、印刷もツテがないことも多く、そうするとワッカデザインで印刷からまるまる全て請けるという流れになることがほとんどだったりします。たまたま僕がグラフィックデザイナーとしても印刷にかなり詳しい方なので、ケースバイケースの事情を見極めて、ネット印刷と対面営業の印刷会社を使い分けていることもあって、一度印刷請けをするとそこからはもうずっと印刷も請けることになり、今では年間1,000万円以上は印刷会社からの仕入れになっています(案件によっては顧客から印刷会社に直接請求にすることもあるので、本当はもっとあるかも)。入稿とか面倒だし、誤植とかWeb制作にはないリスクもあったりはするのですが、これ自体は結構楽しくて、こういうのだとこういう紙がいいよね、とか自信がない時は均量違いで試し刷りをしてみたり(最近はオフセットでの最小ロットが非常に安くなったので、プリンター代わりにネット印刷を使ってたり)、そこでさらに知見が貯まるので、さらに印刷請けがしやすくなるという好循環。ネット印刷は主に3社、対面営業の印刷会社も3社を使い分けることで、価格的にも最適化をなるべく図っているのと、さらに高度な知識と経験が求められるパッケージデザインの時に役立ったりもしています。

広告代理店外しの仕事も増えている!

少し話はそれますが、似たような流れでの受注として、大手広告代理店に依頼をするのを辞めて、自前で制作会社を探そうという大手企業の空気を数年前から感じています。上場しているような規模の会社がうちのWebサイトに問い合わせるなんておかしな話じゃないですか?もちろんその場合は大抵複数社問い合わせているので、見積とデザイン提案のコンペになったりするのですが、その場合もかなりの確率で受注していて、一度受注するとほぼ継続的な取引になります。実際に取引するようになってからよく聞くのが「大手広告代理店に頼むと、価格は無茶苦茶高いわ、指示しないとやってくれないわ、だったら自前で制作会社探しますよ!」みたいな話。たぶんCMを打たない会社が増えているので(CMじゃなくても彼らの持ってくる芸能人をキャスティングした企画に乗らないとか)、その大手広告代理店もそういう顧客には本気でやらないんじゃないかな、と推測しますが、いずれにしてもそうした会社が小回りの効く制作会社を探す流れにあるのもワッカデザイン的には追い風になっているように思います。

ベースに必要なのはデザイン力

ただ、こうした流れを生み出しているのは知識や営業力ではなくて、デザイン力なんですよね。Web制作でもそうですが、結局デザイン力が一定水準にいないと仕事が仕事を生み出す流れを作るのは難しく(一定水準がどこなんだ、という話は置いておいて)、紙にしろWebにしろ時々「どうしたらそんなに仕事って増やせるんですか?」って聞かれるので、その人なりその会社の仕事っぷりを見るのですが、たいていデザインが良くないから価格の下げ合いのゾーンにいて、営業努力は僕なんかよりよほどやっていたりする。それは商売上仕方のないことだけど、その顧客層が相手ではこの流れを生み出せないのもまた事実で(全体の中の一部がその顧客層なら良いのですが)、その意味では特に紙の仕事で生き残っていくにはデザインからはもう避けて通れない時代なのだと思います。これがWebならまだデザインはともかくサイトが安く欲しいとか、システム関係などあまりデザイン性を求められない仕事も結構あるので、そうでもない側面もありますが、よくよく考えてみれば、紙のデザインも昔はIllustratorとPhotoshopが触れるというだけでそれなりに儲かる時代もあったので、これは仕方ないかな。いずれ時代が移り変わっていけばWeb業界の方でもデザイン力が一定水準に満たないと苦しい時代は来るでしょう。僕もまだまだデザイン力を伸ばしていきたいので、そこから目を背けないようにしたいものです。

誰かに求められる人間、会社であれ

そういうわけで、横並びと出る杭を打つのが好きで先輩後輩的な上下関係が好きな我が国にあってなかなか理解されない価値観かもしれませんが、誰かに必要とされる人間って全員ではないと以前よりも強く感じさせられます。誰かに必要とされるということは、また他の誰かにも必要とされるわけですし、これもまた全員から必要とされる必要はないと思いますが、必要とされるには当然それだけの理由があります。身につけた技術があります。優れた人間性があります。これも別に全部じゃなくてまずはどれか一つでも良いと思います。そうじゃないと、これから先の世の中って普通に生きるのが相当苦しくなるんじゃないかなと本当に思います。紙のデザインの仕事はゼロにはならないと思いますし、実はそこそこ残ると思っています(僕の営業経験からも紙で見せたいシーンって結構あるので)。しかしながら、それが仕事として取れる人、会社かどうかはまた別問題で、結構シビアに自分が、自分の会社が他者にとって必要とされているかを問われているような、そんな気がします。

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