「グラフィックデザイナー」という専門職

 
こういうことを言うと、一般的にはこう思うのでしょうか?「やっぱりデザインにはセンスがいるんだ、だから教えることはできないんだ」というような具合に。多分デザイナーではない人にとってはそれで特に支障はないと思いますが、デザイナーになりたい人や経験を積んで一人前になりたい人にとっては死活問題だったりします。結局オペレーション的な仕事しか出来ないのならサラリーマンだろうとフリーランスだろうと大した金額にはならないし、より訴求力のあるクオリティーの高いデザインが出来るようになるにはデザイン力を身に付けないといけなくて、もしセンスがないと思うのなら、センスも身に付けなければいけないからです。その意味では、グラフィックデザイナーと言えども、その世間的なイメージとは裏腹に、かなり地道で長い年月の努力を必要とする、他の専門職と何ら変わらない一つの職業なのです。
 
こういう話をする時、いつもは自分の体験談と結びつけることが多いのですが、今回は立場を逆にしてみたいと思います。つまり本人の自助努力のあり方がどうこうではなくて、どう指導したらきちんとしたデザイナーが育つのか、という見方なのですが、これが正直とても難しい。フリーランスからいわゆる「法人成り」をして名実共に制作会社になって早4ヶ月、色々あったものの社員3名は安定して働いてもらっているのですが、一日でも一秒でも早くより良いデザイナーになってもらうにはどうしたら良いのか。この疑問というか自問自答というかは、頭から離れることがありません。デザインを始めとするクリエイティブな仕事は項目立てて学べば出来るようになるというものではないからです。むしろ僕の思うことに対して、「それは違います、もっといいのはこっちです!」って歯向かってくるくらいの方が、その姿勢はデザインに向き合ってると言えるし、全て自分で感じ、自分で考え、自分でデザイン表現することが、ようやくクリエイティブ的にはスタート地点と言ってもいいくらいなのに、そういう風に他人を導くのはどうしたら良いのか、それがとても難題だというわけです。
 

一つ言えるのは手取り足取りは駄目だということ

 
これまでの経験上、デザインが出来ない人ほど自分のデザインの出来なさを他のことのせいにします。典型的なところでいえば、ディレクターのディレクションのせい、都合の良いデザイン素材がないせい、営業担当の振り方のせい、お客さんが考えてくれないせい。もちろん僕らがデザインの神様にでも仕えていて、ただただ技術の研鑽に励めば良いのならそういうこともあるかもしれませんが、ビジネスとしてデザインを生み出すことを売っている身としてはそれを全て叶えるのは難しい面があります。そして、いつも言うようにこの仕事は一定の答えがあるわけではない以上、自分でデザインを生み出すしかなくて、大したデザインが出来ないのだとしたらそれは大したデザインを生み出せない自分のせい以外にはありえないのですが、だからと言って、上の立場の人が何もしないでいると、たまたま本人が自分で気付くまで永遠に同じステージにいるはめになってしまい、それはそれで膨大な時間と労力が無駄になってしまうし、早く育ってくれないと困るという課題も解決しません。だからある程度の指針、それこそディレクション(案件のディレクションとデザイナーとしてのディレクションと両方の意味で)が必要なのであって、そのあり方とは一体どうあるべきなのか、ということなのですが…。
 
書体は何にして、画像はこれを使って、全体のデザインはこんな感じ、メインビジュアルはこんな感じとかって指定すれば、デザイナーはそうするでしょうが、その場合、そもそも何故その書体がここで良いのか、何故こういう画像を用意したのか、何故メインビジュアルがこれで良いのかを理解出来るかはかなり怪しく、では次回の案件でそこから考えられるかと言ったらやっぱり難しいでしょう。ホントの本当は普段から世の中のあらゆるデザインから敏感に感じ取ってもらえると良いのですが、それもまた指導という意味ではそうもいかないので、せめて業務上では自分で考えてもらって(考えてこないようなら考えるように促して)、それに対してクライアントに出せるものであればそのまま出すし、出せなくても修正して出せるものなら修正指示を与え、出せないものならボツにする、その繰り返し以外には今のところ良い解決策はないというのが本音です。細かなレイアウトの技術は教えれば身に付くと思いますが、それはそれで疑問を持たない姿勢では身に付かないので、身に付けたければ結局自分で考えるしかないのです!上に立つのも思っていたよりなかなか辛い。あぁ、やっぱりデザインは難しいですね。