面白いっていうのはギャグのことじゃない

 
正確には「ギャグも含まれるけど、ギャグだけじゃない、むしろギャグ以外の方が多い」というところでしょうか。デザインの仕事をするようになってから「面白い」ということが、それまで自分が認識していたよりもはるかに貴重で大事なものだと思わされてきました。医療機器営業をしていた僕の「それまでの自分」が世間一般の感覚とどれくらい近いか近くないかは測れませんが、クリエイターとして生きる今の自分よりはずっと常識的で多くの人が持っているだろう価値観の中にいました。大人になるということは真面目に仕事をするということで、面白さみたいのはそれこそスパイスのようなもの、極めてひとかけらに過ぎない感覚だったと思います。それがデザイナーに転職してからは一変、打ち合わせでは常に「面白いこと」を求められ、「面白いこと」を言える人が偉くて、それゆえにONもOFFも常に面白いことに敏感になっていく、関西人でも何でもない僕の認識は大きく方向転換させられたのでした。それまでテレビにほとんど興味を持たなかった僕が、ドラマ、バラエティー、芸能ニュースなども含めて急に色々観るようになったのもその頃です。
 
とはいえ、ここで言う「面白い」というのは芸人になることではないんですよね。まぁ正直なところ芸人になるくらいの気迫の方が広告屋としては才能があるかもしれないのですが、とりあえずそういうことではなくて、デザインって基本的には広告とか販促とかのことなので、物事を良く見せたいわけじゃないですか?印象に残したいし、出来れば衝動買いして欲しい。オリエンでお客さんからは「デザインを考えてほしい」と言われるけど、本音としては「(よく見えて印象に残って売れる)デザインを考えてほしい」ということなのですが、だとすると何か製品/商品があったとして、そのものズバリだと何も面白くないですよね。面白くないから印象に残らない、よくも見えない、結果デザインだけでは売れない、となってしまいがちなところを、斬新な見せ方!気の利いた言い回し!なんか欲しい!むしろ今買っちゃう!っていうのがひょっとしたらデザインの力で出来るかもしれない。その時にはギャグが必要かもしれないし、真面目な顔して意外なこと言うのがいいかもしれないし、アメリカンPOPな派手な感じがいいかもしれないし、Appleよろしくクールでスタイリッシュなものが良いかもしれない。つまり「見せ方が面白い」と色々都合が良いかもしれない。印象に残りそう。手に取ってもらえそう。一度試してもらえそう。ひょっとしたらそのまま買っちゃいそう。中身は全く同じ商品でも見え方一つで結果がここまで変わる、その大元の部分、それが「面白い」かどうか、ということですね。
 

それを言葉で言えば「コンセプト」だ

 
こういう風に言うと、ただただ面白ければ何でも良さそうに見えるのですが、実際にはその商品にも「こういう人のためのもの」というターゲット層がいます。子どもに言うのと、20歳くらいの若者に言うのと、50歳くらいの中年の人に言うのと、70歳くらいのシニア層の人に言うのでは、「面白いこと」も当然変わりますよね?こういうのは年齢だけではなくて色々な要素があります。「性別」「住んでいる地域」「生活レベル」「職業」「趣味」…etc, etc。商品自体の特徴や特性はもちろん、こういったいわゆるマーケティングの要素を踏まえた上で、じゃあどうやったら「面白い見せ方」が出来ますか?ということになります。自分だけがわかる、とか、わかる人にはわかるデザインというのにあまり意味はなくて、そういう意味での「面白いデザイン」を端的に言葉で言い表すと、つまりそれが「コンセプト」。説明したり根拠を示したり色々話すと長くなるけど一言でこの面白さを伝えると「コンセプト」になる、というわけです。デザインだけではなくて、例えば店舗開発とかでも、あるいはもっとビジネス的な企画でも基本的には同じことです。
 
だから「面白いもの」を生み出すためには、まずはその案件そのものを正確に理解しなくてはなりません。その案件の背景も知る必要があるでしょう。それを必要としている層の気持ちも理解した方が良いでしょうし、時にはもっと大きな歴史的意義みたいなものも考える必要があるかもしれません。また、常に大声で最大級の面白さが良いとも限りません。小声で言うこと自体が面白いかもしれませんし、最初は何を言ったかわからないくらいの方が良いこともあるでしょう。そして、受け手にとってみれば、面白いから認識することができて、面白いから一度試してみる、広がっていく、普及していく、そのリズムを生み出すことができる。そのために作り手こそ普段から面白いことや、その時の感覚、感情に敏感でなければそもそも難しい、そういういうわけです。