「やりたいこと」だからゆえの問題

 
僕自身その昔医療機器営業をやっていたり、そもそも経済学部出身なので周りの友人たちも金融業界やIT業界、各種大手メーカーなどのいわゆるサラリーマンが多いので、グラフィックデザイナー含めクリエイティブな業界では、いかに仕事に対するモチベーションの高い人が多いかをよく感じます。基本的に「好きなこと」を仕事にしているから例えそれが小さな仕事でもこだわりは強いし、だからこそプロフェッショナルの商売として成り立つとも言えるのですが、より突き刺さる表現への探求、より高い技術への努力など、日々の仕事が人生のかなりのウェイトを占める生き方をしている、それがわりと「普通の生き方」なのですが、これがその他の業界だと上位数パーセントのモチベーションの高さになるような気がしてなりません。いつか何かの統計で見ましたが、世間一般のサラリーマンでは仕事を自分のことと出来るくらいのモチベーションで働いている人がそんなくらいの割合というのは、体感値とも一致していますので。
 
しかしながら、基本的にグラフィックデザインの仕事というのは、クライアントの広告活動だったり販売促進に使われるために存在しています。レベルの高い仕事をするにはその人ならでは表現=個性が必要不可欠ですし、そのためには傲慢とも言える姿勢さえ必要なのですが、仕事という面から見るとクライアントの広告や販促として効果的でないと成り立たないので、よほど幸運な場合を除いてクリエイターのやりたい表現を100%満足させることはないと言って良いでしょう。と言うか、それくらいの域の仕事が出来ればずっと良い方で、一人前になるまでならともかく、一人前のクリエイターにとって恐らくかなり多くの仕事は「そういうものだ」と思ってやっているというのが実際の姿だと思います。「仕事」だからそういうものですし、やりたいことを仕事にしている以上、生きていくためには仕方のないことでしょうが、そのままではモチベーションが低減していき、その「仕事」すら見向きもされないものになりかねないというのは、とてもよくある話だったりするのです。
 

あなただけの表現って何ですか?

 
実はこの危機感は僕自身のものでもあります。昨年独立し結果として予想を遥かに上回る仕事をいただくことができ、何とか今年もこのまま生きていけそうだというのはお客さんに恵まれ、幸運そのものだと心から思います。そもそもはクリエイターとしてステップアップできる転職先を長いこと探していたものの、他の制作会社に行っても現状と似たようなものだろうと思って独立を選んだので、独立は自分自身の責任で全てを行うというこれまでにない刺激とやりがいはあるものの、クリエイティブという面でステップアップするにはまた別の何かが必要なのかもしれません。そしてそれは仕事の巡り合わせを待つのではなく、自分で作っていかなくてはならないもののように感じます。文章で書くとさらっとしてしまいますが、ここまで来るのに数ヶ月かかっていますので、結構やっかいで悩ましい問題です。
 
自分が心から良いと思えるもの、自分のそばに置いておきたいもの、そういう表現を自分で作り出すということ、そして実際に作り出して自分で改めて感じること、それってあなたにとって一体何ですか?という問いをディレクターとしての自分が気弱なクリエイターとしての自分に問いかける。ブランディングデザイン?ロゴ?いやいや違うでしょう、そういう自己顕示欲ではなくて、例えば学生の頃ひたすら一眼レフで写真を撮っていたのと同じような無限の情熱に似たようなもの、かといって今さら写真も絵もその道で一生懸命やっている人にはとても敵わないし自分だけの表現の域に行きそうもない。そうして残ったのが、デザイナーになった頃はよく作っていたオリジナルキャラクターのポストカード。これをもっと今の思考とセンスと技術でもってもっと深みのあるものに出来るのではないか?人に認められるとかそういうことではなく、嘘偽りなく自分のためにあるものを作りたい、その先に今は見えない何かがあるような気がします。
 
一人前になってからこそ必要なのが自分だけの表現をする場を作っていくことかもしれません。今は具体的な活動に落とし込もうとしているところですが、今年は仕事はもちろん大切にしながら、そういうこともやりながら生きていこうと思います。